私の生き直し
心理学の世界では、これまで永く親しんできた信念(ものごとをどのように見て、どのように意味づけするかの枠組み)を捨て、別の全く新しい信念を選択することを「リフレーミング」もしくは「生き直し」と言うそうです。
なにかの自己啓発書にも出てきそうなフレーズではありますが、実は私自身、過去に一度だけ強烈な生き直しの体験をしたことがあります。
とても個人的な体験なので 誰かのお役に立つとは思えませんが、今回は私の「生き直し」について書いてみたいと思います。
事前のこと
まずはじめに、話の前提となる私の幼い頃からの気質を以下にまとめてみます。
- 外部からの刺激(音・光・熱・振動など)にとても敏感
- 人の感情の変化にもとても敏感
- 内気ではないが、内向的
上記のような気質を持つ私にとって、私の育った家庭環境というのは決して平穏だけを感じるものではありませんでした。
簡潔に言えば家庭崩壊の危機が様々な形で噴出する環境だったので、
敏感だった私などは「いつか家族が壊れてしまうんじゃないか?」という恐怖を感じつつ、家族間の緩衝材として立ち回ることでずいぶん神経をすり減らしてたように思います。
そんな私が社会人になるまでにいつの間にか身につけていたのは、以下のような信念でした。
- 自分が平穏でいるためには、身近な人が感じる不快感にいち早く気づき、いち早く解消しなければいけない
- 平穏のために、事前にできることは全て(無理をしてでも)やる必要がある
- それでも平穏が崩されたときは、ひたすら静かにその衝撃に耐えるしかない。どんなに辛くても逃げることはできないし、誰も助けてはくれない。
※ ちなみにこれらは後になってやっと自覚できたもので、当時は全く無自覚のままでした。
多少の生き辛さを感じつつも、社会に出るまでは上記のような信念で何とか人生を前に進めることができていましたが、
社会人になってから数年後、仕事や人間関係のストレスで体調を崩してしまったのを皮切りに
次第にひどい心身症(頭痛、腰痛、胃痛、慢性疲労、発熱など)に悩まされるようになり、ついには平日の朝でも布団から起き上がれなくなるほどに心と身体が衰弱していきました。
そして最終的には、「自分はこのまま過労なり自殺なりで死ぬのだろう」というリアルな予感まで感じるようになったのです。
きっかけ
死の予感を感じてから、半ば投げやりな気持ちで、これまでの自分だったら絶対にできなかった「第三者に助けを求めること」を実践するようになります。
その具体的な方法のひとつはプロのインストラクターさんの元でヨガを始めること。
そしてもうひとつは、専門家の元で心理カウンセリングを受けることでした。
ヨガをはじめてからの変化は以前の記事にも書きましたが、それ以上に大きな生きる力となったのは心理カウンセリングでの体験です。
心理カウンセリングを受ける醍醐味というのは、決して一時の気休めや慰めを得られる点にあるのではなく、
- 自分がどのような枠組みを使って世界を見ているのか?
- そのような見方をすることで、以前の自分にどのようなメリットがあったのか?
- そして今現在の自分にどのような不都合が生じているのか?
といったことを心底から理解できるようになるという点にあります。
その過程では知らず知らずのうちに抑制していた過去の感情を追体験することもあるのですが、
それらの感情をカウンセラーさんのサポートの元でひとつひとつ拾い集め、丁寧にラベリングし、「今の自分」を基準とした新しい意味づけを加えていくことで、次第に混乱していた自分の心の中が整理整頓されていくのです。
これはまさに、私が体験した初めての「断捨離」といえるのかもしれません。
私の生き直し
このような過程を経て、これまで頑なに守ってきた自分の信念を自覚するに至りました。
それと同時に、今後はこの信念を捨てて全く別の新しい信念を持たなければ生きていけないことにも気づいていきました。
心理カウンセリングを受けるようになってから数ヶ月後。
ある静かな雨の日に、私の中に生まれた新しい信念は以下のようなものでした。
- 周囲の人の感情や思惑がどうであろうと、自分は平穏を感じることができる
- 平穏のために自分を酷使したり、周囲の人の感情をコントロールしようとしたりする必要はない
- 平穏が崩されてもあまり気にせず、粛々と自分の平穏を取り戻せばいい
今現在の私はこの新しい信念を駆使し、育てながら生きています。
ごくたまに昔の信念が顔を出すこともありますが、そこから呼び起こされる重苦しい感情は今となってはとても懐かしく、ある種の愛おしささえ感じます。
最後に
以上の体験は私だけの個人的なものであり、似たような過去をもつ人がいても同じような経過をたどるとは限りません。
きっかけもタイミングも変化の速さも人それぞれですから、ことさらヨガや心理カウンセリングをお勧めするものでもありません。
しかし何かの拍子で自分の中の枠組がガラリと変化することは案外少なくない気がしますので、
今回はその一例として私の体験を紹介させていただきました。